遼の陶磁独特の器形である皮嚢壺(我が国では戦前から鶏冠壺の名で親しんできた)。
ふくよかな胴の膨らみに牡丹図の線刻は手馴れ、澱みがない。草原の地に花開いた契丹民族が作り上げた陶磁文化を象徴的に表した作品。
1984年頃から中国本土の盗掘・開発現場からの出土品が香港市場に流れ出した。私が1985年訪香港時には遼時代・漢時代作品が多く、それまで極めて希少で日本市場価300万円余りだった鶏冠壺は大暴落し、幾数十個運び数寄者に納めた。
しかし線刻牡丹文様がある作品は100本に1本あるかないかの希少であったことを思い出す。
皮製の酒袋を現代の中国では皮嚢壺という。言うまでもなく遊牧民の必需品であった皮製は異国趣味に乗じて唐時代には銀器(参照:DK-770、DK-638、DK-399)や施釉陶磁で作られていた。したがって遊牧民であった契丹族が建てた遼王朝で、この器種が好んで作られるのは当然である。荒土の陶胎に白化粧土が裾に見えるようにして施釉するのが特色。プロポーシヨン・釉調・紋様等秀逸な作品。 |